第1章

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「初めまして。今日はよろしくね」  友人二人に連れてこられた居酒屋で、先に席に着いていたのは、あの三人組だったのだ。 「……ちょっと、何コレ。聞いてない」 「だって言ってないもの。来たからには、協力してね」  耳打ちする私達のことを、あの男が正面からにやにやと笑ってみている。 「うちの会社の営業課の人とその友達なんだけど、合コン頼まれてたんだよね」 「だからって、ちゃんと事前に言ってよ」 「今日は合コンだって言ったら、アンタ来なかったでしょ」 「……よく分かってんね」  不満気な私の言葉をはいはい、と聞き流すようにして友人はさっさとメニューを広げてオーダーを取り始める。私の癒しタイムである友人達との語らいの場が、あっという間に気疲れする出会いの場に様変わりしてしまった。だからといって、これで席を立って帰る程、子供ではない私は仕方なく、外面の顔を作る。  正面の男からの、視線を感じる。私の心臓に大ダメージを与えることができる男からの攻撃をまともに受ける気がしない私はひたすら目を逸らして攻撃をやり過ごす他ない。 「みんなビールでいい?」 「いいよー」 「じゃあ、揃ったところでー。今日の出会いにー乾杯ー!」  相手の幹事の言葉で合コン、とやらが始まった。 「こんな可愛い子達と飲めて嬉しいなぁ」  軽い。実に軽い。ぺらっぺらの紙ナプキンぐらいに発言が軽い。吹き飛ばしてやりたい。  けっと思いつつも外面を崩すなんて愚かな真似をする気はない。 「僕らは営業なんだけど、君たちはどんな仕事してるのー?」 「私達二人はただのOLですー。でも、こっちの子は実は、経営者なんですよー」 「ちょっと……!」  止めるには遅すぎた。OLを装うつもりだったのに。  そうだ、私は小さな会社であるが、経営者なのである。簡単に言えば、自分で海外に行って商品を買い付けて、小売店に卸す仕事をしている。実は、家電量販店に足繁く通うのも、マーケティングも兼ねた実益のある趣味なのである。  でも、それをこんな初対面の人間にあっけらかんと話すつもりはなかったのだ。 「えーそうなの!? 若いのに、凄いじゃん」 「別に、凄くなんてないですよぉ。小さい会社ですから」  嫌味には取られないように細心の注意を払いつつ、答える。 「へえ……」  相槌を打ちながらもあまり興味を持たなかったのか、目の前の男はそのまま聞き流した。
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