こちら『零銭亭』

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「運否天賦因果応報ラーメンですね、かしこまりましたぁ!」 女亭主の明るい声が店内に響く。 まだ席にも着いていないのに勝手に注文が通っていた。 有無を言わせない強引さ、普通ではない。 ―――ガッシャーン。 いや、普通ではないことは承知の上だ。 ―――ガッシャーン。 なにしろ無銭飲食できるラーメン屋があるという噂を聞きつけてようやく探し当てたのがここ、『零銭亭』なのだから。 ―――ガッシャーン。 他に客はいない。 店内を観察しながらカウンター席に腰を掛ける。 「こちら運否天賦因果応報ラーメンです、お待たせしましたぁ!」 その台詞はおかしい。 入店と同時に注文が入り、着席と同時にラーメンが出来上がる。 何も待っていない。 席に着くまで五秒ぐらいだろうか。 これではインスタントラーメンの立場が無い。 無銭飲食というから質には期待していなかった。 ネーミングから色々と覚悟を決めていた。 しかし、目の前に出されたのは一つの作品だった。 厨房から聞こえてきた客を不安にさせるあの音は何だったのだろうか。 「いただきます。」 割り箸を手に取りラーメンと向き合う。 割り箸を割るとパキッと綺麗な音がした。 「お客さん、お好みで七味唐辛子をどうぞぉ!」 にこにこしながら女亭主はラーメンに七味唐辛子を振りかけた。 お好みの意味を後で調べよう。 気を取り直してラーメンと向き合う。 まずはスープ。 蓮華で掬い上げ口へと運ぶ。 身体が芯から温まる。 すぐに麺に取り掛かる。 こちらも絶品。 是非この女亭主に感謝せねば。 「運否天賦因果応報ラーメンですね、かしこまりましたぁ!」 次の客が来たようだ。 女亭主が厨房へと姿を消す。 不安な音が三度。 客は出てきたラーメンを口に運ぶ。 七味唐辛子の件はないようだ。 すると客は突然苦しみだし、そのまま息絶えた。 「ありがとうございましたぁ!」 理解できない状況に戸惑っていると女亭主が口を開いた。 「これは善人にしかあげないの。死んでほしくないからねぇ。」 彼女の手には七味唐辛子。 どうやら生かすも殺すも彼女次第、運否天賦はどこへやら。 真面目に生きてきて良かったと安堵する。
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