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陸巳:「と、言うと?」
男:「保衡行為そのものがリセットされること、それはつまり、世界のバランスがリセットされることと同義だ。異常をきたしている時点の世界へと。
仮に、一月二日に〝書き換え〟が起こったとする。その場合、世界の均衡が乱れたのは、その前日の一月一日ということになる。」
陸巳:「乱れと同時に〝書き換え〟が起こるわけじゃないんですか?」
男:「あぁ。実際のところ、君らが〝書き換え〟を発見したのは常に日付が変わってからだろう?これは《保衡者》という存在自体に、監察者としての性質が備わっているからだ。君らが目を開けてさえいれば、〝書き換え〟は起こらない。極論を言えば、君らが一生寝ずに生活していれば、いくら均衡が乱れても世界が変質することはない。」
陸巳:「逆に言うと、僕らが寝ている間に世界は〝書き換え〟られるんですね?」
男:「その通りだ。話を戻そう。
一月二日の異常な世界を、一月一日以前の正常な世界に〝書き直〟そうとする。その際、我々は幸・不幸のバランスを調整しようとするが、それには我々がどちらかの値を増やしたという事実が必要になる。
ゆえに、たとえ一月三日に世界が〝書き直〟され、一日と同じ状態にリセットされても、二日に行われた保衡行為と、それによる影響だけは残存する。バランス調整の事実が存在しないのに、世界が〝書き直〟されていては辻褄が合わないからな。」
陸巳:「な、なるほど?」
男:「早い話、世界の〝状態〟はリセットされ得るが、〝均衡〟はリセットされ得ない。したがって〝均衡〟に影響を与えた保衡行為そのものも、リセットされ得ない。腑に落ちたかね?」
陸巳:「な、何とか。」
恐る恐る首を縦に振る。
陸巳:「要は、世界の状態はリセットできるけど、バランスはリセットできないってことですね。」
纂:「おんなじこと言っただけじゃないのよ。」
纂は陸巳の頭をチョップで叩く。
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