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燃え盛る炎の中、俺の意識はだんだんとはっきりとしてきた。
俺だって、いつまでも幼児ではない。
虐待される中、ずっと生き抜いてきたのだ。
そして、反撃の時は来た。
俺が中学生になっても、親父は俺を殴り続けた。
飲んだ暮れて働かないくせに。
俺の中で何かが弾けた。
気がつけば、俺は親父を刺し殺していた。
そして火を放った。
それからの人生は面白いほど悪い方に転がった。
少年院から出れば、母親はどこにも居なかった。
やっとクズのような親父から解放され晴れて自由の身になったというのに、また殺人犯で放火までしでかしたバカ息子を待っているほど、世の中はドラマに満ちてはいない。
前科者に社会は甘くはなかった。ましてや親殺しになど。
俺は、天涯孤独で、悪いことなら何でもしなければ生きて行けなかった。
万引き、空き巣、強盗。
「大丈夫ですか?誰か居ますか?」
二人の消防士が駆けつける。
一人はコウジで、一人は親父だ。
「コウジ・・・。」
「コウジ?誰なんだそれは。」
コウジが表情一つ変えず答えた。
いや、コウジは俺の親友でも何でもないし、もう一人の男も親父ではなく見知らぬ男だ。
女が泣いている。
マイコ。違う。女は、俺の彼女でも何でもない。見知らぬ女だ。
お前達は俺を恨んでいるだろう。
夢の中の俺こそが、本当の俺なのだから。
俺はこの山間の静かな一軒屋に強盗に入ったんだった。
本当の俺の生い立ちは、虐待を受け、捻じ曲がって育ち、親を殺し、悪い事は何でもやってきた。
そうしなければ生きていけなかったから。
俺の奪った物の大切さをお前らは俺に伝えたかったんだろう?
俺が殺した見知らぬ一家。
平和に暮らしてきた家族の幸せを奪ったのは俺だ。
無表情の4人が俺を見ている。
両親と恋人、親友だったと思っていた男。
きっと年老いた老夫婦とその息子夫婦が住んでいたのだろう。
親友のコウジと恋人のマイコは俺の妄想で、この二人はきっと俺が殺した夫婦だ。
きっと俺はもう助からない。
燃え盛る炎。
これが全てのはじまりだった。
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