9人が本棚に入れています
本棚に追加
俺の目の前で炎が燃え盛っている。
意識がだんだんと薄れてきた。俺はもうダメなのか。
「大丈夫ですかっ?誰かいますかっ?」
その叫び声に俺は、失いそうな意識を奮い立たせて声を出した。
「た、助けて・・・。」
二人の消防士が俺を見つけて屋外に担ぎ出してくれた。
助かったのか?俺。
気がつけば病院のベッドの上で寝かされていた。
体を動かそうとすると、背中が痛んだ。
どうやら、背中に火傷を負っているらしい。
腕にも包帯が巻かれ、ところどころ痛む。
たいした怪我もなく、俺は奇跡の生還をとげたようだ。
「良かった。意識が戻って。」
彼女はそう言うと大粒の涙を流した。マイコ、俺の彼女だ。
俺は彼女と両親に見守られていた。
全員が良かったと泣いた。
出張先のホテルで火災に遭ったのだ。
親友も俺を見舞いに来た。
俺の無二の親友。コウジ。
すぐに飛んできてくれて、ほんとうに嬉しかった。
俺は驚異的な回復力で1ヶ月で退院の運びとなり、しばらく実家で世話になることになった。
俺の家は典型的なサラリーマン家庭で、両親はすでに引退して隠居生活を送っている。
兄弟はおらず、一人っ子の俺はそれはそれは大切に育てられ、大学にも進学させてもらい、商社に就職、もうすぐ彼女とも結婚を控えた矢先の災難だった。
不幸中の幸いで、俺はこうして無事生きていられることに感謝した。
ところが実家に帰ってしばらくすると、悪夢にうなされるようになった。
夢の中で俺は、まだ年端もいかない幼児で、乱暴な男に殴られるのだ。
虫けらのようにいたぶられる体。
最初は頭を平手で連打され、手で庇おうとすると、細い腕を掴まれビンタ。
たまらず、泣き始めると、泣くなと怒鳴られ、足払いをかけられ引き倒された。
それからは、容赦なく蹴られる。本能的に大事な内臓を蹴られまいと丸くなるしかなく、もう痛みで泣くことすらできずにひたすら耐える。
圧倒的な容赦ない大人の暴力に俺はなす術もない。
俺は玉のように汗をかきながら飛び起きる。
何故こんな夢を見るのか。もちろん、家では親から暴力を受けたことなどなく、あの夢の中の男は誰なのか。
今までこんな夢を見たことが無かったので不思議でたまらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!