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「なあ、俺、最近、変な夢を見るんだ。」
俺は実家ででコウジと酒を酌み交わしている。
「夢?どんな?」
「俺が、虐待を受ける夢だ。夢の中では俺は幼児で、見知らぬ男に虐待されている。」
「そうなんだ。お前んち、親は優しそうだし、幼児期にそんな体験無いだろ?」
「ああ、だから不思議なんだよ。あと、腹が減って、暗い場所に放置されてる夢も見る。ずっと親が帰らなくて寂しいって思うんだ。夢の中で。」
「ニュースで酷い事件聞くからなあ。お前、感化されちゃったんじゃないの?」
「いや、最近はそういうニュース聞かないし、だいいち今までそんなニュースを見てもまったくそんな夢は見なかった。」
「あれじゃねえの?やっぱ火事のショックとかあるんじゃね?まあ、ゆっくり休めよ。有給、余ってんだろ?」
「ああ、会社のほうも、出張させての事故だったからな。完治するまではゆっくり休養しろとのことだ。」
でも、毎晩なんだ。毎晩同じ内容の夢。
俺はどこかおかしくなってしまったのだろうか。
そのことを、マイコにも話すと、心配して心療内科に通うように勧められた。
心療内科に行っても、さらに強い薬が処方されるのみで、俺はだんだんと、意識が朦朧となってきた。
日々、悪夢は酷くなって行く。もうあの火事から随分と経つ。体は回復しているというのに、精神がどんどん蝕まれている感じがするのだ。
「毎日悪夢を見るんだ。夢の中の俺は、幼児でいつも虐待されているんだ。暴力だったり、放置されてたり。すごく苦しくて悲しいんだ。」
そうマイコに訴えた。
「気にすることないわよ。たかが夢でしょう?」
マイコとは思えない言葉に俺は思わず、マイコを見つめた。
一瞬マイコの顔が歪んで見えた。そして、一瞬だが、彼女がまったく別の女の顔に見えたのだ。
「どうしたの?」
マイコがたずねた。
「い、いや。別に。なんでもない。」
きっと錯覚だ。
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