第一章 日常とは異常なものであったことについて

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 俺の幼馴染は壊れている。  同時に、俺も壊れている。  しょうがない。しょうがないね。 「痛いってカナちゃん。正直どうかと思うんだけど」  丑三つ時、月明かりが眩い夜。俺の腹部に座る幼馴染の神月柑那は非常に綺麗な美少女である。いくら長年の付き合いがあるからといって、欲情しないほど異常な青少年ではないのだ。 「はやくしてよ。もう・・・我慢できない」  月明かりに照らし出される容姿。流れるように長く綺麗な黒髪に驚く程に整った顔は苦しそうに歪めているものの、それでも遜色ないほどに美しい美少女だ。 「もう・・・限界なの」  柑那はグッと体を乗り出し、息遣いがわかるほど近くに彼女の顔がある。  ゴクリ。静寂な部屋に俺の喉から音が漏れた。 「もう・・・ダメっ!」  そして、俺は現実を再度確認し冷静に判断するのである。  目前に迫る包丁を避け、柑那の細い腕を掴むと状態を入れ替えてベットへ押さえ込む。手足をバタつかせて暴れる美少女を押さえ込む俺の姿はとてもじゃないが誰にも見せられない。 「はぁ。俺って損な役割だなきっと」  漏れた言葉は今の柑那には届かない。危険を排除するために握られた包丁を奪い放り投げてからいつもの殺人を行う。  両の腕を柑那の白い肌が目立つ喉へと向け、少し力を入れて絞める。  これは本当に誰にも見せることなどできない。なにもしたくてこんなことをしているわけではない。本当、損な生き方だとは思っている。 「柑那は死んだ。俺が殺した。だから、おやすみ」  一瞬強く両の手に力を込める。ピクリと体が跳ねるように動き、暴れる手足は糸が切れたように脱力する。 「おやすみカナちゃん」  意識を失ったことを確認して、充電してあるスマホを手にとってメールを確認すると未読でメールが五十四件入っていたのを見て唖然とする。  どれも似たような文面。今日は遅いとか、死にたいとか、助けてとか、いつもどおりである。異状も慣れれば日常となる。  眠り姫のごとく眠る柑那にベッドを譲り布団を掛けてやり、部屋の片隅に突き刺さった包丁を回収して、冴えた目を落ち着かせるために洗面台へと向かった。  自分の顔を見て最低なツラだと自己嫌悪。同時に頬に走る切り傷を見てため息。  俺、南條智明は今日も神月柑那を殺してしまったと。  それは、至極当たり前のように。
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