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「おはよ」
「おはよ。なんで今日は淳と一緒なの?」
教室に入って自分の席に着くと、開口一番で透子が尋ねる。
「なんか、迎えに来てくれた」
「へぇー。じゃあ、蓮児くんは置き去り?」
「だって、準備するの遅いんだもん。女みたいにセットに時間かけるんだから」
ふてぶてしく返事をすると、可哀想に、という蓮児への同情の声が聞こえた。
「全然可哀想じゃないよー。あんな生意気なガキ」
そんなわたしの言葉を無視するかのように、透子は視線を窓の外に移した。
「お、噂をすれば」
「何?」
「可愛い弟君のご登校だよ」
透子の指さす先に視線を移すと、セットに相当時間をかけたと思われる髪型で校門をくぐろうとする弟の姿。まだ遅刻する時間でもないのに、なぜか全力疾走している。
そのくせに、周囲の女の子への挨拶は忘れない。
「まーた、調子いい男なんだから」
「朝からいいもの見ちゃった」
なーにが、“いいもの”よ。
お姉ちゃんであるわたしの言うことなんか全く聞かない、ただの生意気なガキ。図体と態度だけデカくなっちゃって、器の小ささは昔から変わらない。長風呂だし、今朝みたいにやたら髪のセットに時間かけるし、バスケ馬鹿。
「ぜんっぜん、可愛くなんかない!」
「な…なに…いきなり」
やっぱり、男は“彼”みたいじゃないと。
「ま、乙美も大変だよね。あーんな格好いい男が身近にいたんじゃ、他の男は霞んで見えちゃうよねぇ?」
「いや、わたし彼氏いるし」
「淳よりは蓮児くんだよー」
うんうん、なんて納得したように頷く透子に、ただただ憐みの目を向ける。こんな風に騙されている女の子が多いのが事実だっていうのが、本当に嘆かわしい。
なんであんな男がモテちゃうの?人より少し背が高くて、人より少し顔が整ってて、人より少し運動ができるってだけなのに。
「英語なんてアヒル続きだし」
「でも、理数は完璧じゃん」
「怪しいもんよ、って…」
“なんで知ってんの?”、なんて訊かない。
物好きな透子のこと。きっと、独自の情報収集法があるんだろう。
「ミーハー…」
「あ、蓮児くんがアイドルだって、認めるの?」
いちいちうるさいなぁ。この学校に、物好きが多いだけじゃん。
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