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可奈ちゃんからキャッチした、本日の蓮児のランチ事情。どうやらヤツは、カツ丼を食べたらしい。
理不尽とわかっていながらも、不満は溢れ続けて帰宅時間を迎えた。
今ならまだ間に合う、夕飯の準備。母にメッセージを送り、買い物前であることを確認してからリクエストをする。特に母が決めているメニューがない日は、子どもの要望を聞いてくれることが多い。とは言っても、わたしは滅多にリクエストはしないのだが。
悪事をはたらいている自覚はある。しかし、どうにかしてこのモヤモヤの着地点が欲しい。そのために、わたしは鬼と呼ばれる覚悟がある。
「ごめんね…蓮児」
校門を出てから、一人呟いた。
自宅の前に着くと、夕飯の香りが外にまでただよっていた。美味しそう。
「ただいまー」
「おかえり。遅かったね」
「うん。ちょっと寄り道してた」
「蓮児からメッセージが来て、少し遅くなるって。先に食べといてほしい、ってさ」
「ふーん…ご飯、済ませてくるわけじゃないよね?」
「部活が少し長引くだけみたいよ。家で食べるでしょ。何か心配?」
母の問いかけに、言葉を濁して二階に上がる。やっていることは相当小さいけれど、これでわたしの気持ちは晴れる。
そんなことを考えながらベッドの上の枕に顔を伏せていると、そのまま眠りに落ちてしまっていた。
「…み…いつみ!いーつーみ!」
「…はい!」
半開きにも程遠い目を横にやれば、ブルーのジャージが目に入った…というより、そのジャージを着ている人の脚が目に入った。
「めし。お前、どういう意図でカツカレーをリクエストした?」
「…はっ…あれ?何時?遅くなるんじゃなかったっけ?」
「早くて悪かったな。遅くなるかも、ってメッセージしたんだよ」
母のすごく小さな早とちりのおかげで、わたしは心の準備をせずに蓮児と相まみえてしまった。
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