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「誠にすみませんでした…」
「乙美がリクエストしてくるなんて、なんか珍しいと思ってたら…」
「ウマいからいーけど」
わたしのささやかな嫌がらせは、蓮児にとっては大したダメージにもならず、むしろ食べられなかった場合に食事が勿体ない、という話に発展し、わたしがお叱りを受けている。
「俺に嫌がらせをしたいんなら、もっと考えた方がいいぞー。胃もたれでも狙ったか」
「ケンカでもしたの?二人とも」
「姉ちゃんが勝手に怒ってるだけ。今日は俺の方が被害者なのに。シュン」
効果音を言葉に出すあたり、母の同情を買う魂胆がみえみえであざとい。
「何が被害者よ。小テストは自業自得でしょ」
「小テスト?蓮児、テストがあったの?」
「おい!余計なこと…」
「うん。毎週水曜日。二年生は、英語の小テスト」
“毎週?毎週あるのに、一回も見たことないわ”
とも言わんばかりの視線が、母から蓮児に送られる。というか、刺さっている。
蓮児の惨憺たる英語の小テストの結果を、母は本日初めて知った。その後、部活で疲れている体に鞭を打たれ、彼は日付が変わるまで小テストのやり直しをしていた。
これにて、わたしの理不尽な嫌がらせは幕を閉じた。
思ったよりもスッキリして、その夜の寝つきはとても良かったと思う。
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