第一章

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8年前の俺は10歳で、その頃の俺は専ら植物とか花ばかりを観察していて、いつか新種を発見するんだと毎日毎日学校帰りに虫眼鏡でそこらじゅうの茂みを探索する、分厚いメガネをかけた、角刈りの小太りな少年だった。 当然、周りに友達などいるわけもなく、皆がドッヂボールやサッカーやらで遊んでる昼休みの傍らで、「ふむふむ」と一人呟き、校庭の隅という隅を中腰で闊歩しては、「これは珍しいであるぞよ」などと気持ち悪い語尾を使う、だいたい常に半ズボンを履いてる気持ち悪い子供だった。 そのくせに虫はとびきり苦手で、珍しいであるぞよのその後に、バッタ等飛び出して来るものなら、虫眼鏡を空高くぶん投げてその場から一目散に逃げ出す子供だった。 しかし、運動神経は皆無であるため、足がもつれて派手に転び、またとぼとぼと虫眼鏡を探しに行く、そんな気持ち悪い子供だった。 その頃の僕にとっては、虫眼鏡は大事な宝物だった。しんけんゼミの付録に付いていて、僕の研究を後押ししてくれる画期的な物だった。ルーペが3つも付いていて、それらを全て合わせると最大1000倍率で見れるという、嘘か本当か、今思うと何をそんなに拡大する必要があったのかと思うほど、見るもの全てがぼやけては拡大された。 「スーパーデカメマン」 これは僕の当時のアダ名だった。 分厚いメガネをかけて、虫眼鏡を覗き、隙あらばルーペからも覗く。 ある日の昼休み、僕がいつもの様に校庭の隅で虫眼鏡を覗いていると、かくれんぼをしていたのであろう、隣の席のまいこちゃんが少し離れた木陰で息を潜めていた。僕に気付いてるわけなどなく、ただ小さく身を固めていた。 僕は密かに可愛いなと思っていたが、今は研究の真っ最中なのと、そもそも会話も交わした事がなかったので、僕もひっそりと虫眼鏡を覗いていた。 どうか虫が出ませんように虫が拡大されませんようにと念じながら、恐る恐る一歩を踏み出そうとした時に、まいこちゃんみーつけたと、クラス1の活発なまきこちゃんが校庭の裏手の大きな桜の木の影に音もたてず現れた。 その瞬間、僕の虫眼鏡に1000倍に拡大されたバッタらしき生き物が突っ込んで来て、でも僕は、ここで慌てたらますますカッコ悪いと、虫眼鏡を目元から離すことなく、歯をくいしばって立ち上がった。
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