第一章

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そのまま後退りし、ゆっくり振り返ると、目の前には僕を直視している怯えた顔のまいこちゃんが立っていた。 光り、一瞬何だろうと思ったが、それが涙なんだとわかるまでに時間はかからなかった。 1000倍に拡大されたまいこちゃんの目が少し潤み、涙がちょうど下睫毛から涙袋を伝う辺りで僕はそろりそろりと虫眼鏡を降ろした。 気づけば30センチ程の距離にまで近づいていたアヒル口の可愛い顔があったので、僕は何故か息を止めて何も言わずに走って逃げ出してしまった。 帰りのホームルームではクラス1活発な女子まきこちゃんによって、昼休みの出来事を晒さす会が始まっていた。 「先生!今日の昼休みに百目木君がまいこちゃんを泣かせたんです!」 僕は両手の拳を強く握り、ただただうつむき、早く事が過ぎることを祈っていた。 この日採取した珍しい花を、一刻も早く家に帰って図鑑で調べたかった。 「百目木君が虫眼鏡で目をでっかくして、顔を近づけてまいこちゃんを驚かせてそして、泣かせたんです!」 出っ歯で浅黒くて短髪でスプリンターみたいなまきこちゃんが捲し立てる。 「まあまあ。おい百目木ぃ、本当にそんなことしたのかぁ?」 黒板の脇のパイプ椅子に座り、腕組み聞いていた担任の畠山先生が、面倒くさそうに鼻先をいじりながら僕に言った。 僕はクラス1角刈りで小デブでメガネで半ズボンだから、黙っていた。 「本当ですっ!」まきこちゃんが畳み掛ける。僕は自分の右足の膝にいつの間にか出来ていた小さなかさぶたの様な物を撫でていた。隣の席のまいこちゃんもたぶん、うつ向いていたと思う。 「あいつマジ気持ちわりーよな」 どこからか、そんな声が聞こえる。 友達と呼べる仲間もいなかったし、そんな事言われるのは慣れていたのだけれど、この時だけは涙が溢れそうになったのは、まいこちゃんを泣かせてしまったからだと思う。 「スーパーデカメマン」 後ろの席の足の速い奴がそう言うと、クラスが一瞬、微かな笑い声に包まれた。 「まあまあ。百目木ぃ、だめだぞぉ。女の子を泣かせちゃあ。」 「先生!もっとちゃんと注意してください!女子たち、みんな百目木君が怖いんです!」 その言葉と同時にクラス中がざわめき出し、皆こぞって後ろの席の子や隣の席の子と、そうだよね怖いよね等とお喋りを始めた。
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