第二章

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僕は、半ズボンの右ポケットに忍ばせてある虫眼鏡を素早く取り出す練習をしていた。 誰かが、「おいスーパーデカメマン」と言ってきたらすぐに「ビヨヨヨヨーン」と虫眼鏡を目から離したり近づけたりする渾身のギャグをするためだ。 でも、あの日から誰一人として話しかけてくる事もなく、このギャグはお蔵入りとなり、ただ窓際の僕の席には金木犀の薫りが時折漂うだけで、10月も半ばを過ぎていた。 遠足の日は、母親に休みたいと懇願したが、真冬でも平気で半ズボンを履かせる父親が、男の子は強くあるべきだと意味不明な持論を呈しながら僕の頬を叩くものだから、仕方なく参加した。 平屋の貸家では会話も筒抜けなのだとその時は思っていたが、事あるごとに父親が良いタイミングで襖を開けてやってくるので、母親と二人で会話をしていたときは僕が甘えた事を言ってないか、こっそり聞き耳をたてていたのだろう。 遠足は森の湖畔公園という所で探索には持ってこいの場所だったが、一人で食べるお昼ご飯ほど孤独な事はない。 「ねえ、一緒に食べよう?」 まきこちゃんが、僕が一人で座っているベンチの向こうの女子たちに声をかけ、10人ぐらいの大きなグループを1つ作っていた。その中にはまいこちゃんもいた。 「ねぇ、一緒に食べよう?」 その声は僕の方に向けられていたが、僕は一人もくもくとおかずのひじきを一本一本食べていた。 「ねえ!」 今度はさっきよりもハッキリと僕に発せられた声だと感じ、恐る恐る後ろを振り返ると、グループの女子達は皆一斉に顔を下げこちらを見ないようにし、声を押し殺し肩を小刻みに震わせていた。 そのやり取りが飽きるぐらいに続いて、僕はもうとっくに弁当は食べ終わったというのに、その場を動くことが出来ずにいた。動いたらきっと一気に笑い声が爆発し、もう死んでしまいたくなると思った。 「まきちゃん、もう、ちょっとやめなよ」 聞き覚えのある声が微かに聞こえ、僕は胸が高鳴ったのを覚えている。 あの後に、まいこちゃんが女子達の反感を買っていたら、帰りのバスの中でまきこちゃん達と一緒に騒いでる事はなかったと思うからおそらく、女子達の関係性は微塵も壊れてなかったのだろう。
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