第二章

3/3
前へ
/9ページ
次へ
バスが学校に到着するまでに、僕は何度もまいこちゃんの言った言葉を頭のなかで再生し、込み上げる思いを感じていた。 幸い、というか僕の隣には誰も座ることなどなかったので、一人物思いに耽ることが出来た。どうにか勇気を出してあの時はありがとうと言いたくて、そしてあの時はごめんなさいと謝りたかった。 すっかり暗くなった校庭に、三台のバスが連ねて灯りを灯したのは18時を少し過ぎた頃だった。 「バスの中に忘れ物ないようになぁ」 畠山先生が降りてくる生徒一人一人に声をかけ、鼻を啜る。 半ズボンでは寒い季節、10月の半ばだった。 僕は、校門から出て友達と歩いて帰ろうとしていたまいこちゃんを目で追いかけ、こっそりと百メートル程ついていった辺りで、後ろから声をかけた。 二人は当然驚き、こっちを振り返る。 隣にいるのがまきこちゃんではない事は知っていた。 帰り道が一緒の別の女の子と歩いていた。 神様どうか僕に勇気を下さい。 「あの、あの、今日のお昼、ありがとう、あの、そして、あのとき驚かせ…」 「え、なに、気持ち悪い、こわい。話しかけないで」 次の日の朝は、青森の岩木山に例年より1週間程早い初冠雪の便りが届いたという、そんな10月の半ば、僕はその日見た新人女子アナウンサーのいってらっしゃいの言葉が本当に耳障りで、半ズボンの右ポケットの虫眼鏡を触って確認すると、いつもより30分も早く家を出た。 とても寒い朝だったのを覚えている。 学校までは歩いて15分、階段を登るのが億劫でいつも素通りしていた近所の神社に寄ったのは、教室に一人で居るよりは気が紛れると思ったからだ。 30段程の所々ひび割れた石の階段を登ると、秋の渇いた空気と朝の光が境内にとどまっていた。 そして、その日初めて出会ったお兄ちゃんの顔を照らす、赤や黄色の紅葉が綺麗だと僕はその時、思った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加