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安堵したような心持ちで山を降りると、パンを焼く香ばしい風が食欲をさらった。奥で生地を焼く、優子さんだっただろうか、若く美しい女性がごく稀にマスクを外しているのが扉から垣間見えるのが嬉しくて、パンの美味しさなど忘れて頼まれもしないパンを買いに何度も足を運んだのだった。
店先には以前と変わらない、綺麗な焼き色のついたパンが並べられている。どれにするか決めかねていると、不意に扉の向こうに人影が見えた。童心を思い出して笑みが零れ、扉の向こうでは女性がマスクを取る。
優子さんは、美しい女性だった。いまも、あの頃と変わらぬーー若い女性の美しさであった。
ーー魔女は存在する!
優子さんは、僕が幾つの時であっても、若く美しかった。
ーー優子さんの若さは、美しさは魔法だ!きっと彼女は魔女なんだ!
幼い僕が叫んでいる。
僕たちの目の前には常に宇宙が広がっているように。
熟れた林檎が落ちるように。
全ての謎はいつも身近に始まっている。
その果実は、落ちなかったのだ。
僕の魔女研究は、魔女は存在する。これが全てのはじまりだった。
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