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酒のアテ代わりに見つめる男女の駆け引きは思いの外面白く、一杯だけのつもりだったグラスももう泡しか残されていなかった。
それを右手で持ちながら後ろを振り向いたとき、ふいにバーカウンターの一角で目がとまった。
それは、なんてことのないよくある男女のじゃれあいで、ついさっきまで見ていた鉄平さんにも当て嵌まる。
けれど、なぜか目が離せずにジッとその2人を見つめていると、チラッとだけ見えたその女の方の横顔に、僕は思わず目を見開いてその人物を確認した。
あれって…、池田さん?
下の名前まではさすがに思い出せないが、僕の向かいの席に座る池田さんに似ている。
ていうか、絶対本人だ。
けれど、今目の前に映る彼女の姿は会社で見ているその姿とは180度違っていて、その判断を鈍らせる。
普段からおっとりしたマスコットのような雰囲気を漂わせる彼女は、モテ路線まっしぐらの天然ちゃんとでも呼べばいいのか。
そう、池田さんはおしとやかで純朴で、ちょっと抜けてるけれど許される、そんなドジッ子ちゃんだったはずだ。
しかし、バーカウンターでじゃれあうその子は、くるくるに巻いた長い髪を右側でハーフアップにして、黒々と目の縁を囲んだメイクで男を誘惑している。
週に5日も向かいの席で仕事をしている僕でさえ、本当に彼女が池田さんなのだろうかと困惑するほど、彼女は想像もつかない恰好をしていた。
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