藤原太一という、男

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「麻布?あの…、クラブとか、行ったことなくて…。」 「そっか。そうだよね、似た人を見たんだけど、池田さんはあんなところ行かないよね。」 「うん、人ごみ苦手だし。」 うまく笑えているだろうか。 そしてそれは自然なのだろうか。 感情の読み取れない藤原太一の表情に、私はただ胸を激しく打ち鳴らす。 「だよね、池田さんみたいな子があんなところに行くわけないよね。」 そう言って笑っている彼を見て、誤魔化しきれたのだと思った私はホッと胸を撫でおろす。 会社での私と、金曜日の私が同一人物だと知られてはならない。 なぜかって? みんなの私に対する印象が崩れちゃうでしょ? それと同時に、どうして隠してたの?なんてくだらない質問にあうのも面倒。 最初に私をそういう風に決めつけたのは、 あなたたちの方なのに、ね。
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