6724人が本棚に入れています
本棚に追加
/358ページ
「それで、僕の花嫁はどうして顔を見せてくれないの?」
コツコツと、高級そうな革靴を鳴らしてこちらに近付いてくる足音。
─ほら、お父さん行きましょう。
そんな母の気遣いのあと、二人分の足音が扉の向こう側に消えていく。
静かな室内。
2人っきりの新郎新婦待合室。
「紗弓、見せて?」
そう言って、肩に置かれた手に少しずつちからが込められていく。
「たいち……。」
振り返り、俯きがちな視線を少しずつ上げた先に見える彼の顔。
細められた目元から覗く黒目がちな瞳に、私は少しだけ恐怖を感じていた。
けれど。
「あぁ、綺麗だ。……きっと、僕の花嫁が…世界で一番に………。」
その瞳に映る自分の姿に、私は身体の自由を奪われた。
そこに映る自分に見惚れてたなんてわけじゃなくて……。
その瞳が本当に私しか映していなかったから──。
「太一……。」
腕を伸ばして求める彼の抱擁。
それに小さく頷いた彼が今、私の身体をしっかりと強く抱き締めた。
最初のコメントを投稿しよう!