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定時を迎え、席を立った私はそのまま帰宅しようとデスクの上のマグカップを手に給湯室へ向かった。
ドアノブを捻り、およそ5歩で辿り着く給湯室。
しかし、そこで何やらただならぬ人の気配とめんどくさそうな話し声が聞こえてしまった私は、思わず2歩目で足を止めて近くの女子トイレの中に身を潜めた。
「ごめんね、君とは付き合えないんだ。もしそういう勘違いをさせちゃったんだとしたら謝るよ、本当にごめん。」
耳に届いたのは藤原太一の声で、どうやら告白場面に遭遇してしまったらしい。
「じゃあ、なんで私に優しくしたの?」
「別に君だけに優しくしたわけじゃないし、そもそも僕らもともと何もないじゃない。」
「……あんなに期待もたせておいたくせに。私で、楽しんでたの…?」
「本当にそういうつもりじゃなかったんだ。だからごめん。傷つけるつもりはなかったし、かといって特別君にだけ優しくしてるつもりもなかった。」
苦笑いを含んだその声を聞きながら、思わず周囲を確認してみたけれど。
意外なことに藤原太一の断り方は丁寧だ。
もっと、
……横暴なことを言いそうな『イメージ』があったのに。
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