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「…なんだ、ありゃ。もう始まってるのか?」
「あ、うん、そうみたい。よくあの場所の『歩兵』が最初に出るよね」
「まあ、定跡だからな」
あの場所、とは盤上において7七の『歩兵』であろう。『角行』の右斜め前。ある種の定跡、将棋の初手としてはよくある手である。
「というか、勝手に動いていいのか、これ?」
「ううん、なんていうのかな…動かなきゃいけない人は、こう、ビビッと指令がくるんだよ。電波みたいに。どこどこに動きなさいって。そうじゃないと、このマス目からは出れないんだよね。ほら、こっち来てみて」
手招きをする少女に従って、足元のマス目を飛び越えてみると、
「…あれ?」
確かに線を飛び越えたはずなのだが、着地した足は何故か線の内側である。
何度か試してみるが、ことごとく結果は同じ。まるでその場で器用に足踏みをしているかのように、何が起きているのかと目を凝らしてみるが、しかし一瞬すぎて何がなにやら分からない。
「どうなってんだ、こりゃ」
「ちょっとくらいなら大丈夫なんだけどね、ほら」
言うと、少女は悠樹の腕を掴みつつ、半身だけ隣のマスに滑り込む。確かに、例の瞬間移動は起きていない。
まあ、確かに各々が好き勝手に動いていたら将棋にならないが。
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