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――『あなたは、将棋というゲームを知っていますか?』
そのメールは、そんなタイトルで届いていた。
特になんという事もない平日。高校生である朝丘悠樹は、学校から帰宅していつものようにパソコンの電源を入れて受信メールをチェックする。
スパムやら広告の類と思われるメールを削除し、残った二通のメールの片方は、バイト先のレンタルビデオ屋の先輩からだった。曰く、来週の日曜日のシフトを変わってくれとの事。つまり午後からか、と確認しつつ『構いませんよ』とメールを返信する。
さて、そうしてもう一つ残ったそのメールのタイトルを見つめつつ、悠樹は小さく首を傾げる。
「…まあ、知らないことはないわな」
日本人で、ルールは知らなくてもその名前すら聞いたことが無い、なんて人間は稀だと思われる。超有名な国産のボードゲームの一種である。
古くは江戸時代くらいからあったという話ではあるが、歴史について語れるほど悠樹は将棋について精通しているわけではない。
九×九のマスに、各々が二十枚、八種類の『駒』と呼ばれる戦力を使って交互に戦いを進め、相手の『王将』という駒を取れば勝ち。要はそういうゲームである。
まあ、ともあれそんなタイトルのよく分からないメール。差出人も知らない、というか文字化けでもしているように、意味の分からない記号やら英単語の羅列である。見るからに怪しい。
さっさと削除してしまえばいいんだろうけど、と一つ息を吐く。
理由を問えば、何となく気になったというだけだ。
今よりもっと子供の頃、悠樹は将棋というゲームを真剣に習っていたことがある。単純に言えば好きだったのだ。故あって今はあまり遊ぶ事もなく、また昔ほど熱中できるわけではないが、それでも嫌いだというわけではない。
とりあえずはウイルスの類ではないかをチェックするが、それらしい代物ではないという報告が上がってくる。
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