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『歩兵』――通称『歩』。
将棋の駒の中では最も数が多く、かつ最も弱いと言っても過言ではなく、単体では最も無価値と言ってもいいだろう。
その性能は単純明快。一歩ずつ、前進しかできない。
だが、これがなければ勝負は始まらない。『歩のない将棋は負け将棋』なんて有名な格言があるくらいだ。実力差のある相手にハンデをつける時でも、よほどの実力差が無い限りは歩兵無しで勝負する馬鹿はいない。
もっとも、それとは別に何故好きなのかという理由はあるのだが、真顔で言うのは恥ずかしいので悠樹はあまり口にはしない。
さて選んだのだから何が始まるのかと画面を注視。ポン、という軽い電子音と共に、再びメッセージが現れる。
――『エントリーが完了しました。ごゆっくりお楽しみください』
何の事だと首を傾げ、不意に画面がブラックアウトした。
またか――そんな事を思いながら次の瞬間には意識を失った悠樹は気付かなかった。
ブラックアウトしたのは、自分の視界だという事に。
/序・了/
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