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「ねえねえっ、やっほーっ! おーい!」
ある程度駆け寄り、しかしぴたりと止まったかと思えば、そこから少女は両手でメガホンを作ると悠樹に呼びかける。
少女は何故かパジャマ姿である。難しい事を質問しても分かるかなという微妙に幼い年頃っぽいが、しかし事情が聞けるのは幸いであろう。老人と同じくにこにこと屈託無く笑う少女の元へ小走りに駆け寄る。
「新しい人だよね? 今日はじめて?」
唐突な質問に、思わず首を傾げる。
「新しい…? ああ、ええと、つまりここはどこなんだ? 何で俺はこんな場所に…?」
そんな悠樹の質問に、少女もまた考え込むようにして腕を組む。
「ここ? うーん、なんていうのかな…将棋の世界っていうのかな」
「将棋の世界?」
「メール、届かなかった?」
言われて、悠樹はあっと声を上げる。どうしてその事を忘れていたんだとばかりに。
学校から帰っていつものようにパソコンを立ち上げ、そして届いていた奇妙なメール。怪しいにも程がある演出を見つつ、どの駒が好きか、なんて質問に答えた。そこで記憶がぷっつりと途切れている。
「ど、どういう事なんだ? あのメールは一体…」
「うーん、うまく説明できないんだけど…えと、おにーさん、将棋って知ってる? ルールとか、そういうの」
言われて、悠樹が頷く。少女はそれを見て表情を明るくさせた。
「あのね、ここって、うーんと…そう、将棋盤の上なの」
「………は?」
「それで、おにーさんはわたしの隣だから…うん、『歩兵』だね。自分で選んだの? あははっ、もしそうなら仲間仲間!」
何を言ってるのかと思い――
『あなたの好きな駒を選んでください』
――ギョッとしたようにもう一度、周囲を見渡す。
今度は注意深く、かつそういう前提で。
この大きな体育館のような場所はほぼ綺麗な正方形。人間が規則的に並び、はるか向こうにも人が並んでいるが、中央はぽっかりと空いている。
床を見る。木目調のフローリングに思えるが、もう少し木の素材そのものという感じ。よく見れば直線が網目状に入っていて、規則的なマス目を作っている。どこかで見た気がする。
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