第1章

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 遠い昔の記憶。あれはいつのことだったか、父とあれ、兄と私の四人暮らしで、家庭としては裕福でも、貧乏でもない普通の家庭でした。  父と兄は良く似ていて、とても頼りになります。兄さんとは八歳ほども歳が離れていましたが、そんなことは気にならなかった。父さんもユーモアたっぷりで、どこまでも可愛がってくれました。  そう、愛とはあの二人が与えてくれたものなのです。温かくて、人に分け与えたくなる思いこそが愛なのです。  あれは愛をくれませんでした。あれは私をぶつし、罵倒するし、何一つ私に与えようとはしませんでした。でも、私はあれに良く似ている。  だからこそ、私はあれが嫌いでした。心底嫌いで憎くて、どうしようもなく視界に入れたくなかった。  目に入るたび、声を聞くたびに目の奥が、耳の奥が腐っていくのを感じましたし、おかげで私の脳味噌もおかしくなってしまった。  勉強が苦手になったし、前はできたことができなくなったり。全部あれのせいだ。あれも私を嫌っていて、私もあれが嫌いだった。きっとお互いに同じことを感じていたに決まっています。
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