第1章

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 だからそうだったんでしょう。あれは自分を保つために、私の首に手をかけた。力一杯首を絞められました。  息ができなくて苦しかったし、あれが圧し掛かっていたせいで重かった。でもなによりあれが私に触れていることが最大の苦痛でした。  それを助けてくれたのが父さんでした。あれを突き飛ばして、私を抱きかかえてくれました。温かかった。  でも、あれが父さんになにかしたんです。父さんから、朱色の液体が留めなく流れていきます。あれが私と父さんを引き剥がして、何度も何度も包丁を振り下ろしていました。  父さんは、いつの間にか姿が変わっていました。肉の塊が転がっていて、その側に流れる朱色の液体になっても温かかったです。父さんの優しさと愛が流れていくようで、寂しかった。  あれは、今度は私に向き直りました。父さんはもう助けてくれません。また首を絞められます。父さんの温もりを手にべっとりつけているから、そう苦にはなりませんでしたけど。段々意識が薄らいできたところで、兄さんが仕事から帰ってきました。  当然、居間に入った兄さんは父さんと私、あれの姿を見て戦慄していました。憤怒の形相であれの首を腕で締め上げると、私から引き剥がします。
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