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下校放送のメロディーが響く教室は、夕日に照らされてオレンジ色に染まっている。
黒板に残された数式が、少しだけオシャレに見えた。
夏乃が完成したばかりのプリントを束にして、ホッチキスで止めると、ガシャリと歯切れのいい音が響いた。
そして、小さく息をつく。
しばらくぼんやりと手元を眺め、放送の音楽が途切れると同時にはっとする。
席を立ち、ばたばたと散らばった荷物をまとめ、最後にプリントをカバンにつっこむと、急いで教室を出た。
階段をかけ降りて、そのまま一階の廊下を突き抜ける。
その先には、教室がひとつだけある。
目の前に現れた、大きな両開きの扉の前に立ち、片手で軽くノックし、しばらく待ってから、
「先生、夏乃です。」
と声をかけた。
どうぞ、という返事を聞いてから、右の扉を押し開けて中に入る。
「失礼します。」
部屋に入ると、つん、と消毒液の匂いがした。
同時に涼しい風が肌をなでる。
真っ白な床に、白藍色のカーテン。
ベッドを囲むカーテンは、端まで閉められている。
棚に背丈を揃えて綺麗に並べられている本は、誰も手にとっていないのか、真新しい。
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