プロローグ

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左手の壁に貼られているのは大きなカラーポスターだ。 どの学校にも必ず一枚貼ってあるものだが、これは実は色々とためになる。 夏乃は、それが新しいものに変わる度に足を止めて読んでいる。 どうやら前に見た時とは違うものになっているようだ。 立ち止まり、記事を読んでいると 「夏乃。」 声をかけられ、振り向いた。 現れたのは、白衣の女性。 「香菜さん」 こんにちは、と、その女性に軽く会釈する夏乃。 夏乃に挨拶を返した彼女は、ハッとした様子で 「あ、こら、香菜さん、じゃないだろ、佐々木先生と呼びなさい。」 めっ、とわざとらしく怒ってみせるが、それに全く動じていない様子の夏乃は、表情一つ変えることなく 「香菜さんの方が呼びやすいのでこのままでいいんですよ」 「あ、これ今日のプリントです」 と言って持っていたプリントの束を差し出した。 香奈はそれを見て、おおっ、と笑顔になる。 そして 「ああ、いつもありがとうな」 と礼をいった。 香奈にプリントを渡すと、夏乃はなにも言わずに部屋の奥に入っていく。 何か言いたげだった香奈だったが、諦めて夏乃が渡したプリントを念入りにチェックしはじめる。 夏乃は香奈を一瞥し、カーテンが閉じられた手前のベッドを見た。 ずっと気になっていたのだ。 …放課後なのにベッドが空いていないことに。 香奈を見ると、まだプリントに視線を落としていたが、気にせずにこう問うた。 「今日は誰か寝てるんですか?」
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