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そしてわたしは網から放たれた。
彼は一時の優しさと喜びをわたしにもたらして、そしてわたしを深い海の底に取り残して去っていった。
わたしは色とりどりの海の底に、ひとりぼっちで置いていかれた。
ここは、わたしの居場所じゃない。
わたしの居場所はもっと上の方なの。
なんとか上に戻ろうともがくけれど、わたしはわたしの意思だけでは動けない。波がやがてわたしを押し上げてくれるまで、漂うしかない。
わたしは、この身体に海の蒼を閉じ込めた。
いく日か漂って、わたしはようやく海面のわたしの居場所に戻れた。久しぶりに見上げる海面。屈折してわたしを通り過ぎる陽光。
あぁ、この光はあの白を輝かせるのだろう。
わたしは哀しくも美しい記憶をよみがえらせた。
そして水中から海面を見上げ、久しぶりの空の青を堪能した。
わたしは、空の青もこの身体に閉じ込めた。
二つの《あお》をこの身体に携えて漂い続けた。
ーENDー
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