翼が一羽

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 窓が開いてて、ふぁさ~と頬を撫でる風が心地良い。  俺の髪にまとわりつく風。それをサラリと振り払う。 「嫌いじゃないぜ? この風が俺をいざなう。そう今日は出会いの予感もする」  聞こえよがしに囁く俺の目の前には見知らぬ女子生徒。 (お待たせ。俺と出会うために生まれてきた仔猫ちゃん)  窓辺にたたずむ女の髪がなびき、スカートが上がる──。いや上がらない──。いや上がる──? 上がらない? 風も悪戯がお好きと見える。  すると突如「何を見てんのよ~?」ってな顔で睨まれた。  俺のヘッドバンギングに度肝を抜かれたのか? ふん! お前が格好つけて、窓を開けて(たたず)みつつも <どこか人と違うアタシ> ってな憂いに満ちた哀愁を漂わせる自分に酔ってるから、風に悪戯されたんだろう?  教室側でその女のお友達らしい女がクスクスと笑っていた。  俺が叱られたことを笑ってるならお門違いだお嬢さん? ただ睨まれただけだ。  そんな切ない別れを経て、やっとこさ、俺は、前に一度どこかで見た光景に出逢えた。  どこかは分かってる。学校だ。  そして、俺のクラスと同じ階だ……ろうか? ろうかと廊下をかけて駄洒落に”いそしんでいる”場合じゃない。俺はよく廊下に迷うから、必ずしも俺のクラスの階だと決めつけるのは早急だ。  もしかしたら前に迷った場所を覚えてただけかもしれない。そういう記憶だけは変に覚えてるものだ。  いづれにしても……、俺のクラスという言い方は誤解を招くな。俺の物じゃないから。誤解と五階、これもあとで阿久津に教えてやろう。  ──と、そんな矢先、俺の日頃の勢いが良いのか? 行いが良いのか? 「佐々良(ささら)! お前なに遊んでんだよ? また迷子になったのか?」  やっとお出ましか阿久津ちゃんよ~。 「こ、ここは何階よ~? で、何年の階だ?」 「お前、自分のクラスを目の前にして、何ふざけてんだよ」  そう言って阿久津は目の前の教室に、何の躊躇(ちゅうちょ)も、躊躇(ためら)いもなく(字は同じだが)威風堂々(いふうどうどう)とした風格を見せつつ正々堂々(せいせいどうどう)と正面から入っていった。  俺の勘も中々なもんだな、気づかずに自分のクラスまで来れてるんだもの。  取り合えず、今日も無事、お昼休み後に、ちゃんと教室まで辿り着けたようだ。
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