翼が二羽

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■翼が二羽  ◆五時間目終了。  俺は時間割を見ていて、ひとつ気になったことがあった。  誰かに聞こうかと思い周りをキョロキョロした。  阿久津は入学早々にもう他中(たちゅう)のお友達が出来たようで、そいつらとペチャっとお喋りをしてる。  他の机でも所々でクチャっとお話しに興じる女たちもいる。  ぷいっと見ると、俺の席の左列、三個前の席に、女が行儀よく一人でじっと座っている姿が見えたので、こいつに聞いてみることにした。 「なあー。君ぃ~、そこの女子」  ああ俺だって礼儀はわきまえてるつもりだ。  女子だから、ちゃんと(きみ)と言ってやった。  しかし聞こえていないらしい。  なので隣が空いてるのを良いことに、俺はそこへ腰掛けてから、また一から声をかけ直した。 「ちょっと聞いてもいいかな? 教えてくんねぇ?」  女は顔を向けずに目線だけで俺を見た。  こいつはいつも休み時間は一人でずっと行儀よく座ってるから、礼儀をわきまえた、きっと親切な女だ。  そうに違いない。と、俺の野生の感が教えてくれた。 「あのさぁ、この時間割あるだろ?」  そうやって目の前でプリントをヒラヒラ見せると、一瞬だけ、むにゅっと顔を向けてくれた。 「このHRっての、なんだ? 中学ん時もあったけど、よく思い出せないんだー。なんかLHRってのばっか目立ってるし。どう違うの?」  そう言ったあとに、俺がそこまでお馬鹿さんじゃないことも言っとかないとな、と思って慌てて付け加えた。 「もちろんホームルームだろ? そんくらい馬鹿じゃないんだから知ってるよ」 「あ……うん」  こっちを向いた。  もしかして!  俺のこと本当に馬鹿だと思ってたのか?  ──まあ良い。 「これってなにやる授業? 中学ん時は、毎日の最後の授業の終わりにやってたやつをHRって言ってたよな? だよな? LHRとかになってるけど? 俺はそう思ってたんだけど」 「私も分からない」  そうか……、残念だが、知らないものはしょうがない。  まさか拷問して吐かせるわけにもいかない。  まだ日が浅いから知らない奴の方が多いんだろ。こういうのに詳しい奴ってのは捜せば必ずクラスに一人はいるものさ。 「邪魔したな。憩いのひと時を」
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