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私の視線は、部屋の中をのんびりと歩き回る野良猫を捕らえた。その視線に気付いた猫も、私の方にちらりと顔を向け。私と猫は、一瞬目が合い。私から発せられる殺気を感じ取り、野良猫は咄嗟に逃げようとしたが、私の動きの方が早かった。猫の首ねっこをひっつかんだ私は、私から逃れようと暴れもがく、小さな体を押さえつけ。そして、右手でがしっと猫の頭を掴むと、その首を一気に背中向きに捻じあげた。「ぐきっ」と、私の腕の中で、首の骨の折れる音が響き。猫の体はびくびくっと一度二度痙攣した後、ぐったりと動かなくなった。
私はまだ体温が残る猫の死骸を両腕に抱え、ほんの少しためらったが、やはり自分の奥底から湧きあがる欲望には勝てなかった。私は丸みを帯びた野良猫の腹部に、がぶりと噛み付いた。最初は猫の体毛が口の中いっぱいに広がり、思わずむせかえりそうになったが、それでも食らいつくのをやめなかった。やがて、猫の腹を食い破った歯の隙間から、つい先ほどまで猫の体中を駆け巡っていた生暖かい血が流れ込み、私の口を満たし始めた。
「うおおおお!」私は思わず叫び声を上げていた。叫びながら、食らいついた猫の腹を噛み千切った。今の今まで生きていた、まさに新鮮そのものの、「生の肉」。その感触に、その味わいに。私は狂喜し、陶酔した。私は我を忘れ、抱えた野良猫の体に噛り付いていった。
哀れな野良猫の、さほど多くない肉を食い尽くし。私は再び放心状態に陥っていた。そして、今や自分の内臓が、今までとは全く違うものに変貌してしまった事を、自覚せざるを得なかった。そう、あの「秘宝の水」を飲む以前とは。乱雑に肉を食い荒らされ、ほとんど骨だけになってしまった野良猫の死骸を見ても、生き物を殺してしまったこと、それも自分の欲望を満たすためにやってしまったことを、悔やむ気持ちは起きなかった。そして、その生き物の肉を、本当に自分が食べてしまったのだということも。ただ、自分は何か違うものに変わってしまったんだという事を、ぼんやりと認識するのみだった。
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