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「それでだ。その長老が言うにはな……まあ俺も、長老の言ってる事が全部理解出来たわけじゃないんだけどさ。なんせ今まで誰も訪れた事がなかったような土地で、まともな通訳がいるわけじゃなかったし。
で、長老様の仰るには、この水は『生命の源』だってことなんだよ。これを飲んだ者は、新しい生命を生み出す事が出来る、とかなんとか。ようするに、この水を飲む事によって、まるで生まれ変わったように、体に新鮮な生命力が満ち溢れるってことだと思うんだけどな。
それを聞いて、ぜひ俺もその水を飲んでみたいと申し出たんだけど。これは村に古くから伝わる秘宝だから、外部の人間に分け与える事は出来ない、そして村の外に持ち出す事もまかりならんって言うんだ。だからといって、はいそうですかと素直に帰ってくるわけにもいかないだろう? だから、日本に帰る前の晩、皆が寝静まった頃を見計らって、ちょいとばかしお宝を頂いてきたってわけだ」
この話を聞き、私は「秘宝の水」の事よりも、そいつが取った行動の方に驚いてしまった。
「頂いて来たって……それって、早い話がくすねて来たってことだろ?」
私の問いに、そいつはなぜそんな事を言うのかといわんばかりに反論した。
「くすねるって、人聞きの悪い事を言うなよ。もし、そんなありがたい魔法の水が実在するんだったら、それを広く世に知らしめるのが俺の役目なんだ。使命なんだよ。俺はその使命を果たしただけなんだ!」
何が「使命」で、何が「果たしただけ」なんだかわからなかったが。それでも、その「生命力に満ち溢れる水」という話は、私の好奇心をそそった。最近の私は、ろくに外出もせず運動不足なせいもあるだろうが、毎日仕事に出かけ生き生きとしている妻に比べ、何か老け込んでしまったような気がしていたのだ。正直な話、近頃は夜の生活の方ももうひとつという按配だった。だからといって、精力剤の類を買ってまでというのも、なんだか照れ臭い。しかしその事が理由で、私がダメ元でいいからこの魔法の水ってやつを飲んでみたいという欲求にかられたことは否定出来なかった。
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