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コンビニの棚には見慣れた弁当が幾つも並んでいて、もちろん鳥の唐揚げや牛丼など「肉系」の弁当もあったのだが、私の興味はそちらには向かなかった。ご飯のおかずとして添えられた程度の肉の量では、体の内部から湧きあがる欲求を満たせるとはとても思えなかったのだ。私は弁当の棚の横、並んでいた惣菜の中で肉類のものを片っ端から買い物かごに放り込み、その場でパックを開けて口の中に入れたくなる衝動をなんとか抑え、再び自転車を飛ばしてアパートへと戻った。
部屋に入ると、私はパックのビニールを開けるのももどかしく、そして遂には箸を持つ事さえ煩わしくなり、レンジで温めたばかりの肉を素手で掴むと、無我夢中で口の中に詰め込んだ。口いっぱいに広がる肉汁の味、そして食道を通過し胃に至る時の得も言われぬ感触。その快感に、私は思わず涙しそうになった。これだ、私の求めていたものはこれだったんだ! そういう思いが体中に満ち溢れた。私はもう手を使う事もせず、直接パックにむしゃぶりつき、肉を食い漁った。いつの間にか理性などはどこかへ吹き飛んでしまっていた。ただ、肉を食らう快感だけが、私を支配していた。
買い込んで来た肉をほんの数分で平らげ、私はようやくひと心地ついて、まだ肉汁のついた手でタバコに火をつけると、ふう……と大きく煙を吐き出した。そして、気分が落ち着いたところで部屋の中を見渡すと、その壮絶なる食べっぷりに我ながらびっくりしてしまった。
惣菜を入れてきたビニール袋は床に投げっぱなし、中身を食べ尽くした幾つもの空のパックが、床やテーブルの上に無造作に転がっている。いくら腹が減っていたとはいえ、これはちょっと酷過ぎる。まるで家畜が部屋の中に上がりこんで、手当たり次第にあるものを食い散らかしたかのような、そんな光景だった。そういえば、帰ってから食べるのに夢中で気にもしなかったが、直接肉を掴んだ手も、パックにむしゃぶりついた口の周りも、食べ終わってから洗いもせず、汁にまみれてベトベトのままである。
私はついさっきまで自分がしていた事に、今さらながらに驚いていた。どう考えても、これは普通じゃない。とても自分がやった事とは思えなかった。いや。実際これは、私が私の意志でやった事なのか? 私自身の意思ではなく、何か別のもの――私以外の何かが私にやらせたものとしか思えなかった。
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