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実は、と言いかけた彼女の口に、僕は隠密のような速さで、
彼女の為に所持していたから揚げを突っ込んだ。
彼女は僕に、本当の事を告白してくれるつもりだ。
僕はその気持ちに答えなくてはならない。
彼女はそれを3秒で飲み込んだ後、言った。
「知ってたの?」
彼女の目が、今にも泣き出しそうだった。
「知ってた」
僕は答えた。
「じゃあ、どうして教えてくれなかったの」
「君が必死で隠してたから」
「嫌いになった?」
「なるわけないよ」
「じゃあやたら差し入れしてきてたのも」
「うん」
「家に行くと必ず特製から揚げお土産に持たせたのも」
「うん」
「バイト突然始めたのも」
「うん、美味しいもの食べさせたくて」
「全部私の為に?」
「そうだよ」
ついに彼女の目から一筋の涙がツーっと伝った。
僕は彼女をあやすように言った。
「あのね、よく聞いて。僕は、君を東棟から見つけた時から、から揚げを一瞬で食べる君を見つけた時から、もう、この人しか居ないって思ったんだ。あまりにも綺麗で、あまりにも非現実的な君の姿は、平凡な世界から僕を救い出す天の梯子だったんだ。僕は生涯ずっと君の味方だよ。僕は君に堂々と、もっと美味しいものを遠慮せずに食べて欲しいんだ。だから泣いたりしないで」
超がつくほどひた向きで素直な彼女は、
僕のその言葉を受けて一瞬で泣き止んだ。
さっき濡れた頬がサラサラになるほどに。
そして、しっかりと目を見てこう言った。
「ありがとう。私はあなたが大好きです。一生、これからも」
春を予感させる日差しの中、まだ寒い3月の風を受けて、
僕はパックいっぱいの特製から揚げを取り出した。
僕が頷いて見せると、彼女は僕の前でそのから揚げをすうっと一息で吸い込み、綺麗に完食した。
そして、照れたように微笑んだ。
その時僕は鮮明に、あの日西棟に居た君を思い出す。
これが全てのはじまりだった。
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