前編 から揚げ

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Curiosity killed the cat. 好奇心は猫をも殺す。 今日の英語の授業で、そんなことわざを教わった。 強かな猫も持ち前の好奇心が原因で、 命を落とす事があるということわざだ。 僕は正直に言って、好奇心の塊だ。 それで命を落とすことも厭わないほどに。 逆に言えば好奇心の湧かないものには、 全くと言って無関心である。 世の中の事も、社会が赤点だという事も、 その補習を受けなきゃいけない事も、 全てがどうでも良さの極みだった。 Prime Minister. それは内閣総理大臣の事だ。 これも今日の英語の授業で知った。 僕は社会のテストで、日本の内閣総理大臣が今誰なのか、 本当に思いつかなかった。 本当に思いつかないものだから、 オバマと書き込んでもちろんバツだった。 そんな僕が特別教室に来た理由。 彼女の名前を知る事。 彼女の謎を解く事。 あの「から揚げ捕食」の映像が、 幻じゃない事を確かめる事。 席について、膨らんだカーテンをじっと見ていた。 そしてふと思いついて、電子辞書を開いた。 好奇心。 英語で、 Curiosity 彼女が僕に抱かせた好奇心が、僕にその単語を引かせた。 僕が彼女に抱いているのは、間違いなくキュリオシティだ。 目黒が、補習を始めるぞ、みんな席につけと言った。 生徒たちが重い足取りで席につく中、 彼女は微動だにしなかった。 目黒があの濃い赤の靴下に気付いて言った。 「おおい、飯田星海。早く出てこい」 いいだほしみ。それが彼女の名前。 結局彼女は目黒の呼びかけに気付かず、 肩を叩かれるまで、窓から中庭を覗いた格好のまま動かなかった。 カーテンから顔を覗かせた彼女は、相変わらず涼しい顔をしていた。 僕は一瞬で、彼女に恋をした。
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