第1章

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 私は彼女の家に来ていた。彼女の両親に紹介されるために……。  私は自分で言うの何だが『不細工』だ。はじめて女性と付き合ったのは二十四歳、すぐに振られた。  それ以降は女性との交流はなかった。今年三十二歳になるまで。  そんな私に彼女ができた。  きっかけは会社の飲み会だった。新入社員の歓迎会、新入社員の彼女が僕の隣に座ったのがきっかけだ。彼女は僕の手を見て、笑顔で言った。 「うわっ。手がお綺麗なんですね」  社交辞令だと思った。  私は手どころか顔ですら手入れと言う手入れをした事がない。多少手入れをしたところで素材の悪い私には全く意味のない事であったから。 「ん? 普通でしょう?」 「いいえ。綺麗です。肌の質感はきめ細かいし、血管も浮き出ていない。  何より爪が、爪がとても綺麗です」  女性に褒められたことのない私は嬉しかった。世辞だろうけれども嬉しかった。  それがきっかけで、彼女は何かある度に私を誘い、食事や飲みに行くようになった。  そしてある日、彼女は私に交際を申し込んできたのだ。  私は夢心地だった。こんな私に、とても綺麗な若い女性が想いを寄せてくれる。  とても幸せだ。いつしか私は彼女との結婚を意識した。  そして、今日、彼女の家に招かれた。とても不安だ。  冴えない不細工な私を彼女のご両親はどう思うのだろう。  落胆し、結婚どころか交際すら認めてもらえないのではないだろうか。  彼女の家についても緊張と不安は消えるどころか増していた。  私は彼女に先導され居間に通された。 「待っててね。お父さん呼んでくるから」  彼女は私の不安を余所に明るい笑顔で居間を出て行った。  居間にはテーブルが一つ。  待っている間、落ち着かずにテーブルの上をじっと見た。  何やら装飾が施されているのだろう。煌めいている。派手な輝きではない。もっと落ち着いた自然な輝きだ。  薄い何かが貼り付けてあるようだ。その何かは一つ一つは一センチほどの大きさで、楕円に近い。触ってみるとつるつるしている。  ……どこかで見たような……その時、私は「はっ」とした。  そして改めて顔をテーブルに近づけた。 「こ、これはっ!?」  私は仰け反りテーブルを改めて見る。テーブルの上に施された物。  『爪』だった……。
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