霧の城に、龍は棲む ㊤

三、生贄

　運命。

　そう、全ては定められた運命だったのだ。

　本当は生まれてすぐに捨てられて、野犬の餌にでもなって死んでしまうはずだった自分が、幸運にも村長夫妻に拾われて１６年も存えることができたのは、今この時のためであったのだ。

　紅が身代りの決意を玉麗に伝えた初夏の頃、玉麗は自分の身に起きた変化に気づいたばかりだった。

　子供のころから想いを寄せあい、先は当然一緒になるものだと村中が思っていた陽春と玉麗の二人。
　玉麗の生贄の話が決まってからは村の大人たちによって顔を合わせることも禁じられ、玉麗は半ば村長の屋敷に幽閉されるようにして過ごしてきた。

　しかし、たった一度。ただの一度だけ禁を破り、陽春は玉麗のもとへと忍び込むことができた。

　紅自身が彼を邸内へと手引きした結果でもあった。