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闇の濃さから、朝はまだ遠いと思われた。
紅が眠っていたのは、おそらくほんのひと時であろう。
村の男たちが生贄の樽を置いたのは、霧の城の城門のすぐ脇だ。
外が見えなくても、紅には音が聞こえる。
城の主を恐れる男たちのささやき声、ぎいと音を立てて何かが開いた音がしてすぐに紅の載せられた樽は一瞬大きく揺れ、地面へと下ろされた。
逃げるように去っていく数多の足音が無くなった後、しばらくは紅も体を強ばらせて化物がやってくるのを待っていた。
どんな化物なのだろう。
昔語りに出てくるように、毛むくじゃらの化物だろうか。
背丈は、杉の木ほどもあるのだろうか。口は燃える火のように真っ赤なのだろうか。
…そして、どうやったら、食われずに逃げられるだろうか。
この樽から紅が姿を出した途端に食うつもりなのかもしれない。
では今外に出るべきではないのか。
そのようなことを考えているうち、いつまでたってもやってこない化物を待ち疲れ、極度の緊張もあいまって、紅は居眠りをしてしまったのだった。
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