三、生贄

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 もしかしたら、本当は化物なんてはじめからいないのかもしれない。  生来楽観的な性格の紅は、目を覚ました後そう思い始めていた。  だって、お腹を空かせて待ち構えているはずだった化物が、生贄の到着後、こんなに長い時間やってこないなんておかしいではないか。  もし自分が化物だったら、ご馳走がやってきた途端に飛びつくであろうに。  そもそも、化物の姿を見た人間など一人も会ったことがない。すべて噂話で聞いたことばかり。  樽から出て山を下り、村の近くの青河の葦の茂みに隠した小舟に乗って河口付近にある青都(せいと)まで逃げ延びれば。  紅の立てた計画通り、玉麗達と落ち合えるのではないか。
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