三、生贄

9/10
前へ
/152ページ
次へ
 青河州の州都でもある青都。  去年、15歳の成人の儀に玉麗が纏う衣装を買うための付き添いに一度だけ訪れていたそこは、田舎の村から逃げてきた若者が身を隠すにはうってつけの大きくて賑やかな街だった。  生来過ごした大切な村の生活を捨てなければならなくとも、3人はまだ若い。  すぐに都会の生活に馴染むことができるであろう。  陽春は、家業の手伝いで何度も行商に訪れていて土地勘もそこそこあるらしい。  都会は働き口を見つけることも容易だ。  陽春と紅が外で働き家計を支え、質素な長屋か何かに細々と隠れながらも春先には生まれる赤子の面倒を見る。  新婚家庭に居候するのは気が引けるものがあるが、紅はもとから下女としてきちんと心得がある。  そのうち余裕ができれば紅一人で家を借りてもいい。  紅の大好きな食べ物の屋台から雑貨までそろう賑やかな市、たくさんの人、村には決してないほどの大きな建物。年越しには花火が上がる。  それは、逃亡隠遁の暮らしとはいえ、とても楽しい未来に紅には思えた。
/152ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加