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よし、ここを出よう。
紅はそう決意をし、手首に絡まる紐を解いた。
霧の城からふもとへの山道は、若い女の足ではかなり厳しいことはわかっている。
まして、このような頼りない月夜だ。
道を違えるかもしれない。野犬や、下手すれば狼に出くわすかもしれない。
けれどいつまでも樽に潜んでいるわけにもいかないし、こんな誰もいない城からは一刻も早く出たかった。
言い伝えは嘘っぱちで霧の城にはおそらく何もなかったのだ。
ここを出なければ、青都での新しい生活は手に入らない。
お腹も空いたし、早く何か食べたい。
紅は懐に忍ばせてあった小刀を取り出し、樽の蓋をギシギシとこじ開けた。
ゴトンと音を立て、外れた蓋が地面に落ちた。
ずっと樽の闇の中にいた紅は月明かりに目を細め、それから樽の中で伸びをするようにゆっくりと立ち上がって城の前庭らしきあたりを見回し――…
「お待ちしておりましたぞ、奥様」
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