四、老婆

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 突然の声に驚いた紅は危うく腰を抜かしそうになったが、声の主が化物ではなく小さなおばあさんだったことにいくらか安堵した。  それでも老婆の言った言葉が気にかかり、紅は眉を顰める。 「あの…」 「この城の使用人で、文(ぶん)と申しますじゃ。わたしではそこを開けて差し上げられぬゆえ、ここでお待ち申しておりました。何度かお声をおかけしたのですが、聞こえなかったようで。申し訳ありませぬ」  文というその老婆は屈めた腰のまま、さらに頭を下げた。  たしかに文の小さな体では、手を伸ばしてもこの大きな樽の蓋を開けることは不可能であったのだろう。  紅がここに来てからずっと、文はただ立って待っていたのか。  まだ季節的にそこまで冷え込みはしないだろうが、山の夜は寒い。 そして文はかなりの年寄りに見えた。
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