一、霧の城

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 龍氏は、百年以上前に宵が青河州に攻め入ってきた際滅ぼされたとされていて、現在の霧の城の主が誰なのかはわかっていない。  一説には、龍氏が滅ぼされた後、化け物が住みついたとも言われている。  それを裏付けるかのように、青龍山の谷からは、たまに化け物のうめき声のようなものが風に乗ってふもとの村々にまで響くことがあったし、霧の濃い青龍山は山菜や貴重な薬草の宝庫で、村の人間はそれを採りに山に入ることがあったが、禁忌とされている城の近くや谷の方にまでうっかり近づいた人間は皆行方知れずになった。  青龍山を水源とし、海へと流れる青河に、惨殺された死体が流れ着くこともあった。  そこには、何かが、いる。  その『何か』に生贄を差し出さなければ、大きな災いが訪れ村は滅びる。  言い伝えに従い、村々では、順番に娘を城へと捧げることに決まっていた。生贄を捧げなかったことなど過去一度もないので、本当に災いが訪れるかどうかもわからない。  しかし、それは決められたことで、百年以上もの間疑問を抱かれることもなくただ粛々と実行されてきたのだ。  ある村の村長の娘、玉麗(ぎょくれい)が霧の城の生贄として選ばれた今年も例外ではなかった。
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