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「…本当に、いいの?」
今夜何度となく繰り返された玉麗のその問いかけに、紅(べに)はわざと呆れたようにため息をついた。
「もう、玉麗様!何回同じこと聞くんですか。あたし自身が決めたことです」
「でも…」
「いいから。早く、陽春のところへ戻って。そろそろこの樽を城まで運ぶ村の男たちが戻ってきちゃいます。あたしたちが入れ替わったことがばれては大変なことになりますよ。玉麗様もすぐに村を出て下さい。いいですね?」
囁くような二人の少女の会話。村はずれの広場。
さきほどまで行われていた祭りの賑やかさが、まるで夢幻であったかのように静まり返っている。
穏やかな秋の夜の風が木々をさやさやと揺らし、黄金色の満月は、抱き合うようにして寄り添う二人の影を地面に濃く映す。
二人はほぼ同じ年月を、同じ村の同じ家で過ごしてきたが、その運命は大きく異なっていた。
それは、二人の出自に関してもそうであるし、これからの未来もまた、天と地ほどの差が開いている。
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