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「樽の重さで中身が入れ替わってるの気づいちゃったらどうしましょうね」
ふふっと冗談めかしてそう言いながら、さきほどまで玉麗の手足を縛っていた白い縄紐をくるくると自分の手首に絡める。
もちろん、本当に縛ったのではなく、いざという時すぐに解いて逃げられるようにしてある。
「蓋、自分じゃできませんから、よろしくお願いします」
紅に木製の樽の蓋を渡された玉麗は、泣くなと言われたにも関わらず、いっそう咽ぶように涙を零した。
自分の身代りに紅を生贄に差し出すことへの罪悪感。
家族のようにして過ごしてきた紅への愛情。別れの辛さ。
玉麗は、細い体の中に嵐のように巻き起こる様々な感情にぐらぐらと揺れる。
本当に、いいの。紅を霧の城に生贄に出して、わたしだけ陽春と逃げていいの。
紅は死んでしまうかもしれないというのに?
それは、わたし自身が紅を殺すことと同じ。
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