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紅が代わりに行くと言ってくれたあの日、二人で決めたはずのことだった。けれどこの期に及んで迷う玉麗。
紅はそんな玉麗に姉のような優しい目を向ける。
「元気な赤さまを、生んでください。そのためです」
紅のその言葉に、玉麗は涙に濡れた顔を上げる。
果実のようなその可愛らしい唇は、強く噛みしめたせいで血が滲んでいた。
「玉麗様のお子は、あたしにとっても愛し子ですよ。あたしが、その子を守りたいと思うのは当たり前のことです。だから、あたしは行くんです」
「紅…」
玉麗はまだ迷っていた。
それでも小さく肯いた。今はそれしか道がない、そうするしかなかったのだ。わかっている。けれど。
「急いで。後ろ、松明の明りが見えます」
言われるままに玉麗が後ろを振り向くと、田畑のあぜ道を通っていくつもの小さな黄桃色の光がゆらゆらとこちらへ近づいてくるのが見えた。
もう、来てしまう。迷っている時間はないのだ。
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