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「とりあえず、それだけあれば足りるかな」
恵吾はそう言うと資料室を出ていこうとした。
「え?英語の資料は?」
「ああ、あれは嘘。単に美咲と2人きりになりたかっただけ」
私は言葉を失い、自分の詰めの甘さに苛立ちながら、早くここから立ち去ろうと歩き出す。
積み重なった大きなファイルのせいで、目の前はよく見えなかった。
恵吾が不意に私の行く手を塞いで、手に溢れていた資料を一つだけ取り上げる。
「約束したかったんだ」
資料が一つ取り除かれたことで、目の前に立つ恵吾の顔がかなり至近距離にあった。
「今日も一緒に帰ろうね」
「え?いや、でも‥‥‥きゃっ!」
言葉を言いかけた私につかさず恵吾は顔を近付けて、頬に軽くキスをした。
「恵吾‥‥っ」
「絶対だからね?」
恵吾は私に持たせた他のファイルも全部取り上げると、にっこり笑って資料室を出て行った。
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