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策士の恵吾から捕まらずに逃れる方法はあるだろうか。
退社時のシミュレーションをしながら、静かな足取りで海外営業部へ続く廊下を歩く。
海外営業部の中に入ると、入口付近に立っていた女性に目を奪われ、私は大きくそれを見開いた。
「あら……。あなたは……」
その女性は私に気付くと一瞬驚いたような顔をした後で、にこりと微笑む。
その笑い方はどことなく恵吾と似ていて、ザラリと胸を削られた気がした。
5年前に初めて見た時と変わらず、緩やかなパーマのかかったロングの髪。
知的さと気品さを兼ね備えた高貴な姿。間違いなく彼女だ。
目が合ったのだから、せめて挨拶くらいすればいいのに、突然現れた香織の姿に私は何ひとつ声を出せなかった。
それに、香織がさっき発した言葉が引っかかる。
「あなたも、この会社に居たのね」
や……、やっぱり。ギクリと身体全身に緊張が走る。
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