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夕方近くなると、玄関から和やかな明るい声が聞こえてきて、私はその2人の声を聞くことさえ許されないのではないかと不安になった。
「あっ、ママだ!」
めぐみがこれ以上幸せなことなんてないと主張するように満面の笑みで私を見て、走り寄ってくる。
そんなめぐみを「おかえり」と受け止めた私の手は微かに震えた。
「あれ?本当に今日は早いじゃん」
樹生が驚きながらも、嬉しそうに笑う。
「昨日遅かったから、今日は早く帰れたの」
樹生に微笑み返す私は悪魔の化身でしかないと思った。
「やったぁ!ママのカレーライスだぁ」
食卓に並べた料理にはしゃぐめぐみ。
「台所が汚れるから揚げ物はしたくないって言うくせに、ヒレカツ作ったの?」
カレーライスに添えられたヒレカツを見て、私を弄る目つきをしながらも満足そうな樹生。
めぐみの好きなカレーライス。樹生の好きなヒレカツ。
こんなものを作ったからって、私が許されることなんてないはずなのに、私は何を取り繕いたいんだろう。
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