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「樹生‥‥」
「そんな顔してるよ?」
私は樹生に言い当てられた事実に言葉を返せなくて、頬を濡らしていた涙を咄嗟に手で拭った。
「俺とめぐみの存在が邪魔になった?それなら、めぐみは俺が1人で育てたっていいんだよ」
少しだけ冷たくなった樹生の口調に、私はパッと目を見開く。
「イヤ!そんなこと絶対しない!」
私が強く反論すると、樹生は鼻から重く息を吐き出して、肩を落とした。
「ごめん‥‥言い過ぎた。でも俺のことは気にすることない‥‥。俺たちは好き合ってるわけじゃないんだから」
そう言って寂しそうに笑う樹生の優しさが深く身に染みる。
そう、私と樹生は好き合うことなんてない。だから私は今の生活を選んだのだ。
5年前、私は恵吾のことを好きになればなるほど、自分の気持ちを置き去りにした。
罪を犯してしまったから、私はいつしか、たくさんの嘘が必要になっていた。そして、嘘を塗り固めた。
何も返事ができないまま見つめ返す私に近付いた樹生は、私の頭に手を伸ばそうとしたけれど、その手をぎゅっと拳に変えて引っ込めた。
「先に寝るよ」と優しい声で言うと、私の横を通り過ぎる。
私は樹生を引き止めることは出来なかった。
だけど、樹生の思いに甘えた自分は肯定したくて、去っていく樹生の背中をじっと見つめ続けた。
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